住まいの「温度」も設計するパッシブデザイン【冬暖かく、夏涼しい家づくり #4】
連載【冬暖かく、夏涼しい家づくり】では、パッシブデザインが目指す、自然の力を利用して快適に暮らす家づくり。その設計手法について、紐解いていきます。
弊社に相談いただくお客さまに現在の住まいの不満について伺ってみると、やはり多いのは「冬は寒いし、夏は暑いんです」という声です。
新しく家を建てるなら、とうぜん「冬暖かくて夏は涼しい家を」となるわけですが、設計段階で外観・室内のデザイン・素材は選べても、実際に冬はどれくらい暖かくて夏はどれくらい涼しいのか、完成して住んでみなくてはわかりませんでした。
そこでパッシブデザインを用いる方法では、たとえば断熱材や窓の性能などの目に見える手法だけでなく、目には見えない室内の温度まで計算し設計することで「質の高い室内環境」をつくりだしています。
室内の温度を設計するために、まずは家の躯体と窓について、それぞれの性質を知っておきましょう。
1. 動かないもの(躯体)と 動くもの(窓)
建物を「窓という穴の開いた箱」としてみたとき、窓以外の部分(躯体)の性質や機能を変えることはできません。たとえば断熱性能が決まれば、その時点で冬にどれくらい熱が逃げて、夏にどれくらい熱が入ってくるか決まることになります。
一方、窓はその性質や機能を変えることができます。その要因は「熱、光、風」のすべてが窓を通過できることにあります。また、窓は躯体に比べて断熱性能が低いため、冬の室内の熱が最も失われる場所でもあります。
まとめると、躯体で建物の基本性能(ポテンシャル)を決め、窓はそこからの対応力(振幅)を決めるという位置づけです。
そこで窓の対応力(振幅)、つまり窓をどのように選択・配置するかが、設計する上でとても重要となってきます。さて、ここまで窓にこだわる目的とは、いったい何でしょうか。
2. 肝は「太陽の光」をコントロールすること
パッシブデザインにおいて「活用・調節」したい自然エネルギ—のほとんどは「太陽の光」です。
夏は窓から入る太陽の光を防ぎますし、屋根や外壁に当たり熱になったものは室内に侵入させないようにします。
冬は逆に、室内に太陽の光を入れて、それが熱になったものを外に逃がさないようにするなど、窓をうまく利用しながら、夏と冬でバランスをとることが必要です。
3. 「太陽の光」エネルギ—はどれくらい大きいのか
住まいに大きな影響を与える太陽の光ですが、どのくらいのエネルギ—をもっているのでしょうか。
冬の大津市の場合です。南面の窓には1㎡あたり、253Wのエネルギ—をもった太陽の光があたります(表参照)。複層ガラスの日射熱取得量(窓を通過する熱量)は0.79なので、窓を閉めた状態で200W/㎡のエネルギ—が室内に入ることになり、そのほとんどが室内を暖める熱に変わります。
つまり、3㎡分(1間の掃き出し窓、1枚分)の太陽の光では、600Wの電気ストーブと同じだけのエネルギーがあるというわけです。
4. 外気温と室温の1日の変化を予測する「室温シミュレーター」
「室温シミュレーター」では、建物をひとつの箱とみなして計算を行い、夏と冬の外気温と室温の1日の変化をシミュレーションして数値化しグラフで表します。
設計した住まいの躯体の断熱性能、窓や扉など開口部の面積、複層などガラスの仕様、ブラインドなど窓周りの部材、通風の性能などの要素によって室温がどのように変化するかをシミュレーションすることで「めざす室内環境」にバランスよく近づけていくのです。
5. 設計して終わり、ではない
ここまでは、設計の手法について色々と触れてきました。最後に、パッシブデザインの考え方において、重要なポイントです。
たとえば、室内に入り込む夏の日射を遮るために外付けのブラインドを設置した場合、複層ガラスの窓からの日射量と、外付けブラインドを閉めた場合の日射量では4倍以上の差があります。
外付けブラインドを設置するかどうかは設計の仕事ですが、それを閉めるかどうかは住み手の暮らし方です。パッシブデザインによる「住まい」の設計も、そこに住む方の暮らし方から始まることに変わりはありません。
まとめ
日本人は、もともと上手に自然を受け入れて暮らしてきました。冬は太陽の当たる縁側が最高の居場所となり、夏はそこに簾を下げて日差しを遮り風を通すなど、自ら工夫をしてきました。
これらは、快適に暮らすために自然エネルギーを活用・調節するパッシブデザインの考え方そのものなのです。
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